結論から言います。この学校を取材して一番心に残ったのは、校長先生のこの言葉でした。「ここは最後の砦です。本当は、ここに来なくて済む社会になってほしい」。今日は、心和中学校を取材して感じたことをまとめます。

「最後の砦」としての中学校
心和中学校は、学校に通えなくなった子どもたちが転入できる、大阪市内の中学校です。似た仕組みとして、転入不要で出席扱いになる学習支援校(大阪市内3か所)もありますが、心和中学校は正式に転入する形を取っています。
校長先生が語った「最後の砦」という言葉の重みは、実際に見学してみると、より強く感じられました。ここに辿り着く子どもたちの多くは、それまでにいくつもの場所で「合わなかった」経験を重ねてきています。その最後に、ようやく居場所として選べる場所。だからこそ、校長先生は同時に、「本当は、ここに来る必要のない社会になってほしい」という、少し矛盾するようにも聞こえる願いを口にされていました。
定員を超えても、あぶれてしまう子がいる現実
心和中学校のような場所は、決して「余裕のある居場所」ではありません。定員は常に超過しており、「最後の砦」からもあぶれてしまう子どもがいるという、構造的な問題があります。
これは、大阪市の不登校の実態とも関係しています。大阪市の不登校児童生徒数は、1000人あたり中学校で58.3人。全国平均の42.6人を大きく上回っています。この数字だけでも、大阪市において、居場所を必要としている子どもの数が、いかに多いかが分かります。
「最後の砦」としての中学校
心和中学校は、学校に通えなくなった子どもたちが転入できる、大阪市内の中学校です。似た仕組みとして、転入不要で出席扱いになる学習支援校(大阪市内3か所)もありますが、心和中学校は正式に転入する形を取っています。
校長先生が語った「最後の砦」という言葉の重みは、実際に見学してみると、より強く感じられました。ここに辿り着く子どもたちの多くは、それまでにいくつもの場所で「合わなかった」経験を重ねてきています。その最後に、ようやく居場所として選べる場所。だからこそ、校長先生は同時に、「本当は、ここに来る必要のない社会になってほしい」という、少し矛盾するようにも聞こえる願いを口にされていました。
この言葉の裏にあるのは、「最後の砦であること」に安住するのではなく、できることなら、この砦にすら来なくていい社会を目指したいという思いです。そして実際に、この学校では、その思いを言葉だけで終わらせず、「学校に行けるハードルを、できる限り下げる」という形で実践に落とし込んでいました。校則をなくすことも、フロアを自由に選べる仕組みも、担任を固定しない制度も、すべては「行きたくても行けなかった子」が、少しでも足を運びやすくなるための工夫だったのだと、取材を通して理解できました。

校則がなく、自分で居場所を選べる自由度
校舎に入ってまず印象的だったのは、その空間デザインです。「IKEAルーム」と呼びたくなるような、木の温もりを感じる空間デザインが随所に取り入れられていました。区P役員として見学に来られていた方が、「軍隊的だった自分の中学時代とは、まったく違う」と話していたのが印象的でした。空間デザイン心理学の視点が、意図的に取り入れられているようです。
この学校には、校則がありません。フロアごとに色分けがされており、その日の気分や体調に合わせて、自分の居場所を選べる仕組みになっています。「今ここにいるよ」ということが分かる仕組みも整えられており、無理に人と関わらなくても、自分の存在を確認してもらえる安心感があります。

「担任ガチャ」を回避する制度
学校生活の中で、子どもにとって大きな影響を持つのが、担任の先生との相性です。いわゆる「担任ガチャ」という言葉があるように、合う・合わないは、学校生活そのものを左右してしまいます。
心和中学校には、この「担任ガチャ」を回避する制度が整えられていました。決まった一人の担任にすべてを委ねるのではなく、子ども自身が、頼れる先生を選べる、あるいは複数の関わりの中で支えてもらえる仕組みになっているようです。これは、通常の学校運営ではなかなか実現しにくい発想だと思います。
図書室にあった一冊の本
図書室を見学していて、目に留まった本があります。河合隼雄さんの『子どもと悪』です。この本がさりげなく置かれていることに、この学校の選書の姿勢が表れているように感じました。子どもの「悪」とされる行動の奥にある心理を、丁寧に見つめ直そうとする視点が、学校全体の空気にも通じているように思えました。

夜間学校との同居が生む、思いがけない刺激
この学校のもう一つの特徴は、夜間学校(夜間部)と同じ校舎を使っているという点です。昼間部は48名、夜間部は57名が在籍しており(令和8年4月1日現在)、夜間部の内訳は中国40%・ネパール26%・日本20%・韓国7%と、多様な国籍の生徒が学んでいます。
年齢も背景も異なる外国人労働者の方々が、夜間、同じ校舎で学んでいる。この存在が、昼間部の中学生たちに、思いがけない良い刺激を与えているそうです。学ぶことに対して、貪欲に、真剣に向き合う夜間部の生徒たちの姿は、昼間部の子どもたちにとって、日常の学校生活だけでは出会えない生き方を見せてくれているのかもしれません。
学び方は、オンラインと対面の組み合わせ
心和中学校の学び方は、オンラインが2割、対面が8割という組み合わせで、昼登校制が取られています。全日制の学校のように毎日決まった時間に登校するのではなく、その子のペースに合わせた形で、学びの機会が保障されています。
卒業後、多くの生徒が選ぶのは通信制
気になったのは、卒業後の進路です。心和中学校の卒業生の多くは、通信制高校に進学しているそうです。全日制の高校に無理に合わせるのではなく、自分のペースで学べる環境を、引き続き選んでいく生徒が多いという実態が見えてきました。
これは、以前このブログで書いた「不登校」を、困っている子の話にしなくてもいいのではないかという記事の内容と、まさに重なります。学校に行けなかった過去を持つ子どもたちが、その先も、自分らしく学べる場所を選び続けている。この学校での取材を通して、「前向きな不登校」という視点は、決して机上の空論ではないと、改めて感じました。
まとめ
ここまで紹介してきた取り組みは、どれも単体の工夫に見えて、実は根底で「学校に行けるハードルを下げる」という一つの願いでつながっていました。校則をなくすことも、居場所を選べる自由も、担任ガチャの回避も、すべて「行きたくても行けなかった子」が、少しでも足を運びやすくなるための実践だったのだと思います。
- 心和中学校は、学校に通えなくなった子どもたちが転入できる「最後の砦」
- 定員は常に超過しており、あぶれてしまう子がいるという構造的な課題もある
- 校則がなく、フロア別の色分けなど、自分で居場所を選べる自由度がある
- 「担任ガチャ」を回避する制度など、子ども中心の仕組みが整えられている
- 夜間学校との同居が、昼間部の子どもたちに思いがけない刺激を与えている
- 卒業生の多くは通信制高校に進学し、自分のペースで学べる道を選び続けている
- すべての取り組みの根底には、「学校に行けるハードルを下げる」という校長先生の願いがある
アセラズ、クサラズ、アキラメズ。
「ここに来なくて済む社会になってほしい」という校長先生の願いを胸に、この学校が担ってきた役割の重さと、そこにある温かさの両方を、これからも伝えていきたいと思います。


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