結論から言います。「いじめの認知件数、また過去最多」というニュースを見ると、不安になる方も多いと思います。でも、詳しく調べていくと、この数字は、単純に「いじめが増えた」というだけの話ではないことが見えてきました。
いじめの認知件数、また過去最多に
文部科学省の「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は76万9,022件で、前年度から5.0%増加し、過去最多を更新しました。児童生徒1,000人あたりの認知件数は61.3件(前年度57.9件)です。
いじめを認知した学校の割合も89.0%に達しており、これは現在のいじめの定義になった平成25年度以降で最大値です。ほとんどの学校で、何らかのいじめが認知されている、ということになります。
実は、法律上の「いじめ」は、かなり広い
ここで、いじめの定義そのものを、改めて確認してみたいと思います。「いじめ防止対策推進法」(2013年施行)第2条では、いじめをこう定義しています。
「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」
ポイントは3つあります。まず、以前の定義にあった「精神的な苦痛」が「心身の苦痛」に変わり、体の症状(腹痛や頭痛など)まで含む、広い範囲になりました。次に、インターネットを通じた行為も、法律上はっきり対象に含まれています。そして何より、かつての定義にあった「自分より弱い者に対して一方的に」「継続的に」「深刻な苦痛」という要素が、法律上の定義からはなくなっています。
「いじっていただけ」は、法律上の言い訳にならない
この定義で、特に知っておきたいのが「いじり」との関係です。法律上の判断基準は、あくまで「被害者が心身の苦痛を感じているかどうか」であり、「いじっていただけ」という加害者側の主張は、いじめを否定する根拠にはなりません。
以下のような場合、「いじり」は「いじめ」として判断される可能性があります。
- いじられている本人が、繰り返し苦痛を訴えている
- 断れない力関係や、拒否しにくい環境の中で行われている
- 外見や家庭環境等への差別的な発言で、人格を傷つけている
お子さんから「いつもいじられる」「クラスで笑われる」という話が出たら、まずは「それは嫌だったね」と受け止めることが、出発点になるのだと思います。
当事者でない我が子から、その話が出たときも
ここで、もう一つ大切にしたいことがあります。「うちの子は、いじめる側でもいじめられる側でもない」という場合です。「クラスのあの子、みんなによくいじられてるよ」——そんな話を、我が子が何気なく口にすることがあります。
このとき、「そうなんだ」で終わらせず、親として「それは、いじめなんだよ」と、はっきり伝えてあげてほしいと思います。当事者ではない子どもたちは、その光景を日常的に見ていても、「いじり」という言葉で片付けてしまい、それが「いじめ」だと気づかないまま、大人になっていくことがあります。
周りにいる子どもたちが、「これはいじめだ」と正しく認識できるようになることは、傍観者を減らし、早期発見にもつながる、とても大切な一歩です。我が子自身が当事者でなくても、この視点を伝えておくことには、大きな意味があるのだと思います。
“増えた”のは、見つけやすくなったからかもしれない
ここまで見てきた通り、いじめの認知件数は、10年で約4倍にまで増えています。これは、いじめそのものが4倍に増えたというより、定義が広がり、見つけようとする仕組みが強化された結果、という側面が大きいと考えられます。
実際、文部科学省自身も、今回の増加の背景として、「1人1台端末を活用した心の健康観察の導入」「アンケートや教育相談の充実による見取りの精緻化」「SNS上のいじめについての積極的な認知」を挙げています。発見のきっかけとして最も多かったのも、「アンケート調査など学校の取組による発見」(48.0%)でした。つまり、以前は埋もれていたものが、端末やアンケートを通じて、見えるようになってきた、ということです。
それでも、正直に言っておきたいこと
ただ、良い話だけで終わらせるのは誠実ではないと思います。パソコンや携帯電話を使ったいじめの件数自体は、2万7,365件(前年度2万4,678件)と、実質的にも増加しています。また、いじめの解消率は76.1%で、前年度の77.5%からやや低下しました。理由として、SNS上のいじめは見えづらく、解消したかどうかの確認がしにくいこと、安易に「解消した」とせず、丁寧に対応する傾向が広がっていることなどが挙げられています。
つまり、「見つけやすくなった」ことは事実である一方、SNSという、見えにくく解決しにくい新しい領域でのいじめも、確実に広がっている、ということです。
まとめ
- いじめの認知件数は76万9,022件で過去最多、10年前と比べると約4倍に増加している
- 法律上の「いじめ」の定義は、かつてより広く、「継続的に」「深刻な苦痛」といった要素は要件から外れている
- 「いじっていただけ」という主張は、いじめを否定する根拠にはならない
- 当事者でない我が子から「あの子いじられてる」という話が出たら、それはいじめだと伝えることも大切
- 増加の背景には、1人1台端末やアンケートの充実による「見つけやすさの向上」がある
- 一方で、SNS上のいじめの実質的な増加や、解消率のやや低下という、正直に向き合うべき現実もある
アセラズ、クサラズ、アキラメズ。
数字が増えたことに一喜一憂するより、「見つけられる仕組みが、少しずつ機能し始めている」ことを、まずは前向きに捉えたいと思います。


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