結論から言います。高校生・大学生のアルバイトが、理由も告げずに突然辞めてしまう。退職代行サービスは、もはや正社員だけでなく、学生の間にも広がっています。一方で、学校でも、いじめのような明確な理由がないまま、「なんとなく行けなくなる」という、令和型の不登校が増えています。この二つ、実は同じ根っこから生まれているのではないか、という話をしたいと思います。
退職代行は、もう学生の日常になっている
退職代行サービスは、以前は正社員が主な利用者でした。でも今は、「高校生・大学生でも相談可」と明記するサービスが複数登場し、アルバイトやパートでの利用も、当たり前になりつつあります。
産業能率大学の専門家は、こう分析しています。「若者を中心とした利用者の増加は必然。自分の意見を主張したがらない『ノンアサーティブ』な若者が増えている」。ノンアサーティブとは、心理学でいう自己表現の3タイプ(攻撃的・非主張的・理想的)の一つで、**自分の意見を抑え込み、相手を優先してしまう**コミュニケーションのスタイルです。頼まれると断れない、不満があっても表面上は納得したふりをする、といった特徴があります。
「バックレ」には、実は2つの違う心理がある
ここが、今回一番丁寧に考えたいところです。「突然辞める・来なくなる」という行動には、性質の違う、少なくとも2つのパターンがあると考えられます。
一つ目は、**追い詰められた末の防衛反応**です。臨床心理士の解説によれば、過度なストレスに長期間さらされると、脳の前頭前野(冷静な判断を担う部位)の働きが一時的に低下し、「もう逃げるしかない」という極端な思考に陥ります。「逃げたい」という気持ちは、これ以上心が傷つかないよう自分を守る、正常な防衛反応だとされています。
二つ目は、**そもそも困難に耐える経験自体が不足している**ことによる、早期の離脱です。あるカウンセラーは、若年層の忍耐力低下の原因を、根性論ではなく社会的な問題として分析しています。タイムパフォーマンス重視の文化、すぐ答えが手に入る環境、選択肢の多さによって、「少しでも困難に直面すると、『自分には向いていない』と断定し、すぐに別の選択肢へ乗り換えてしまう」傾向があるといいます。
この二つは、まったく違う心理です。前者は「限界まで我慢した末の、やむを得ない選択」、後者は「困難の、わりと早い段階で選ばれる、一つの選択肢」です。御指摘のように、すぐに辞めたり、急に来なくなったりする行動は、後者のパターンに近いのだと思います。
「理由のない不登校」と、驚くほど似た構造
そして、ここが今回の核心です。不登校の子どもたちの中には、「自分でもよくわからない」「学校に行く意味がわからない」と話す子が少なくありません。文部科学省委託調査でも、不登校の主たる要因の約半数は「無気力・不安」という、はっきりした理由のない状態でした。
「少しでも困難に直面すると、向いていないと判断し、すぐ離脱する」という、若者の労働観の変化と、「明確な理由はないが、続けられないという感覚だけが先に立ち、行けなくなる」という令和型の不登校は、驚くほど似た構造をしています。どちらも、**困難や葛藤に、留まって向き合う経験が、十分に積まれていない**という、共通の土台があるのではないかと思います。
1990年代からの「叱らない子育て」という背景
この土台は、いつ、どのように作られてきたのでしょうか。心理学博士の榎本博明氏は、「傷つきやすい若者、すぐキレる若者、頑張れない若者」が増えている背景に、1990年代あたりから急速に広まった「叱らない子育て」「ほめて育てる」という潮流があるのではないか、と指摘しています。
子どもを傷つけないよう、失敗を極力排除する環境づくりが進んだ結果、「子どもたちは、失敗を通して、現実を生き抜く上で大事なことを学んでいく」という機会が、知らず知らずのうちに減ってしまったのではないか、という見方です。公認心理師による不登校の解説でも、過保護・過干渉に育てられた子の傾向として、「ストレスに弱い」「小さなことでもすぐにストレスを感じる」ことが挙げられています。
もちろん、不登校の原因は一つではありません。いじめ、発達特性と学校制度のミスマッチ、家庭環境など、複数の要因が複雑に絡み合っています。「育てられ方だけが原因」と単純化することはできません。ただ、「困難に、留まって向き合う経験」という観点で見たとき、バイトを突然辞める若者と、理由のない不登校の子どもたちの間に、見過ごせない共通点があるのではないか、というのが、今回たどり着いた仮説です。
まとめ
- 退職代行サービスは、高校生・大学生のアルバイトにも、既に広く浸透している
- 「突然辞める・来なくなる」行動には、①追い詰められた末の防衛反応、②困難への耐性の低さによる早期離脱、という性質の違う2つの心理パターンがある
- 不登校の主要因の約半数は「無気力・不安」という、明確な理由のない状態であり、②のパターンと構造的に似ている
- この背景には、1990年代から広がった「叱らない・傷つけない子育て」が、困難に向き合う経験を減らしてきた可能性がある
- ただし不登校の原因は複合的であり、育て方だけに単純化すべきではない
アセラズ、クサラズ、アキラメズ。
子どもを傷つけたくないという思いは、親として当然のものです。だからこそ、「守ること」と「困難を乗り越える力を育てること」の、両方のバランスを、意識していきたいと思います。


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