「バズりたい」が判断を狂わせる。行政の炎上から、子どもに伝えたいこと

育児・生活習慣系

結論から言います。「注目されたい」という気持ちは、時に「これは正しい判断か」という冷静な問いを、簡単に押しのけてしまいます。今日はそれを、行政という大きな組織が実際にやってしまった出来事を通じて、子どもに伝えたいメディアリテラシーの話として考えてみます。

法務省が、わずか2週間で撤回した理由

法務省保護局は8月上旬、Netflixの恋愛リアリティー番組と更生保護の取り組みをタイアップさせたポスターを発表しました。「更生上等」「立ち直りって、ラヴだ」というコピーとともに、刺青を入れた出演者の姿をあしらったこのポスターは、全国の保護観察所などに約2000枚配布されました。

しかし、番組の出演者が「人に火を付けた」などと発言したことがSNSで問題になり、犯罪被害者から見て不快感を抱かれるのではないかという批判が相次ぎました。法務省は8月21日、当初の意図を全うすることが難しい状況になったとして、タイアップの中止を発表しました。発表からわずか2週間ほどでの撤回でした。

なぜ、行政ほど堅実な組織がこれをやってしまうのか

ここで気になるのは、「本来もっとも慎重であるべき行政が、なぜこの企画にゴーサインを出したのか」ということです。答えの一つは、注目度をタダで借りられるという誘惑にあると思います。話題のドラマに乗っかれば、行政が自前でゼロから広報を作るより、圧倒的に低コストで多くの人の目に触れられます。堅くて伝わりにくいテーマを、感情に訴える形に変換できる、という魅力もあります。

ただ、これは「バズりたい」という欲求そのものです。承認欲求が強い状態では、批判を恐れてよく考えないまま安易な判断をしてしまい、有効性のない選択が通ってしまうことがあると指摘されています。組織であっても、この構造から自由ではないということが、今回の件で浮き彫りになりました。

ホワイト社会と評価経済、相反する2つの圧力

評論家の岡田斗司夫氏は、これからの社会は「評価経済社会」になっていくと指摘しています。お金の多さより、どれだけ他者から認められているかが価値を決める社会という考え方です。同時に岡田氏は、行動や発言のみっともなさが許容されなくなる「ホワイト社会」への移行も指摘しています。

この2つは、実は綱引きの関係にあります。評価経済が進むほど「注目されたい」という欲求は強まります。一方でホワイト社会が進むほど「叩かれたくない」という恐れも強まります。法務省の件は、まさにこの綱引きに失敗した実例だったと言えるのではないでしょうか。注目されたい気持ちが、叩かれるリスクへの想像力を上回ってしまったのです。

これは、子どもたちが日常的に経験していることでもある

ここまでの話は、行政だけの特殊な事情ではありません。SNSを日常的に使う子どもたちも、まったく同じ綱引きの中にいます。「いいね」がたくさんつく投稿をしたい気持ちと、炎上したり友達に悪く思われたりすることへの恐れ。この2つの間で、判断が揺れ動くのは、大人も子どもも同じ構造です。

だからこそ、法務省の件は、子どもと一緒に考える、良い教材になると思います。「話題になっている」ことと「正しい・良いこと」は、必ずしもイコールではないという視点です。

子どもに伝えたい、シンプルな問いかけ

難しい理屈を伝える必要はありません。ニュースやSNSで話題になっていることについて話すとき、こんな問いかけを添えてみるのはどうでしょうか。

  • 「これ、話題になってるけど、内容もちゃんと良いことなのかな?」:話題性と中身の良し悪しを、切り分けて考える練習になります
  • 「もし後で”やっぱりやめます”ってなったら、なんでだと思う?」:注目されることの裏にあるリスクを、一緒に想像する練習になります
  • 「あなたが投稿するとき、”いいねが欲しいから”と”これを伝えたいから”、どっちの気持ちが強い?」:自分自身の動機に気づく練習になります

これらは、SNSを禁止することよりも、ずっと実用的な力になると思います。バズる・バズらないに振り回されず、自分なりの判断基準を持てるようになることが、これからの時代を生きる子どもたちには必要なのではないでしょうか。

まとめ

  • 法務省のドラマタイアップは、批判を受けてわずか2週間ほどで撤回された
  • 「バズりたい」という欲求は、行政のような組織であっても、冷静な判断を鈍らせることがある
  • 評価経済(注目されたい)とホワイト社会(叩かれたくない)は、常に綱引きの関係にある
  • この綱引きは、SNSを使う子どもたちも日常的に経験している構造と同じ
  • 「話題になっていること」と「良いこと」を切り分けて考える視点を、日々の会話の中で育てられる

アセラズ、クサラズ、アキラメズ。

バズることも、叩かれることも、これからの時代、誰にとっても他人事ではありません。だからこそ、その両方に振り回されない、自分なりの物差しを持つこと。それを、子どもと一緒に育てていきたいと思います。

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