結論から言います。2026年9月、日本が、OECDの国際学習到達度調査(PISA)で、読解力・数学的応用力・科学的応用力の3分野すべて、史上初めて1位になりました。素晴らしいニュースです。ただ、私は、この「1位」を、素直に喜んでいいのか、少し立ち止まって、丁寧に考えてみたいと思いました。
「1位」の、正確な中身
まず、事実を正確に見ていきます。日本は、OECD加盟38カ国の中では、3分野すべてで1位でした。ただ、OECD非加盟国・地域を含めた、全体の順位では、それぞれ4位・5位・5位です。また、数学と科学は、前回調査から得点自体は下がっており、統計上、実質的な横ばいと判断されています。読解力に至っては、13点の低下があり、こちらは「偶然ではない、有意な低下」とされています。
つまり、「1位」というのは、日本の実力が、飛躍的に伸びたから、というより、OECD平均が、長期的に低下する中で、日本が、横ばいを維持できた結果、という側面が大きいのです。
「教員が頑張ったから」は、本当に正しいのか
この結果について、SNS上では「まずは、世界最高レベルの成果を上げている先生達を評価せよ」という声を、多く見かけました。実際、専門家の中にも、「経済的社会的に厳しい背景にある子どもに対して、公立学校の教員たちが一生懸命頑張り、底上げすることによって乗り越えている」と、教員の努力を、強く評価する声があります。
ただ、これだけでは、説明しきれない部分もあります。過去の調査を振り返ると、日本の好成績の要因として、「他の国々よりも、コロナ禍での休校期間が短かった」という、教員個人の頑張りというより、構造的・政策的な違いが、繰り返し指摘されてきました。「教員は頑張っている」という評価は、間違いではないと思います。ただ、それだけで、すべてを説明するのは、少し単純化しすぎているのかもしれません。
15歳がピークで、その後はどうなるのか
ここで、もう一つ、大切な視点があります。PISAが対象にしているのは、15歳の生徒です。では、その生徒たちが、大人になってからは、どうなるのでしょうか。
実は、OECDには、16歳から65歳までの「成人」を対象にした、PIAAC(国際成人力調査)という、別の調査があります。日本は、この調査でも、読解力・数的思考力ともに、世界トップクラスの成績を維持しています。ただ、気になるデータもあります。参加国全体の傾向として、読解力・数的思考力・問題解決能力は、いずれも、学校教育を終えた後も伸び続け、30歳前後でピークを迎え、その後、緩やかに低下していくとされています。
これは、正直、少し複雑な気持ちになる事実です。ただ、大切な補足があります。この「学校卒業後にピークを迎え、その後低下する」という傾向は、日本だけの特別な現象ではなく、世界中の、多くの国で、共通して見られる傾向なのです。フィンランド、日本、オランダ、ノルウェー、スウェーデンといった、複数の国が、同じように、高い水準を維持し続けています。
世界全体が、静かに沈んでいく中で
ここまで見てきて、一つの、大きな構造が見えてきました。PIAACの最新調査でも、「10年前と比較して、成人のスキルは、ほとんどの参加国・地域で、低下または横ばい」という結果が出ています。つまり、世界全体が、ゆっくりと、下降していく傾向の中にあるのです。
そう考えると、今回の「日本1位」というニュースの、本当の意味が見えてきます。日本が、何か特別なことをして、飛躍的に伸びたから1位になったのではありません。世界全体が、静かに沈んでいく中で、日本は、他の国々に比べて、比較的、緩やかに、踏みとどまっている。それが、今回の結果の、一番正確な姿なのだと思います。
「劣っているわけでも、優れているわけでもない」という、静かな現実
この結論は、学力だけの話ではないのかもしれません。よく、「日本は、経済的に衰退した」という論調を、耳にします。ただ、それも、学力の話と同じように、「世界全体が、伸び悩む中で、日本も、他国と同じように、伸び悩んでいる」という、構造なのかもしれません。
「日本はダメだ」という悲観論にも、「日本は素晴らしい」という楽観論にも、どちらにも、安易に飛びつかず、実際のデータを、一つひとつ、丁寧に見比べていくこと。それこそが、こうした華やかなニュースに触れたとき、本当に大切な姿勢なのだと思います。
まとめ
- 日本はPISAでOECD加盟国中、史上初の3分野1位となったが、これはOECD平均の低下の中での、相対的な結果という側面が大きい
- 「教員が頑張ったから」という説明は、部分的には正しいが、コロナ禍の休校期間の短さなど、構造的な要因も大きい
- 15歳のPISAでは世界トップクラスでも、大人を対象にしたPIAACでは、30歳前後でピークを迎え、その後緩やかに低下する傾向がある
- ただし、この傾向は日本特有ではなく、世界の多くの国で共通して見られる
- 世界全体が、ゆっくりと下降する中で、日本は、比較的緩やかに踏みとどまっている、というのが、最も正確な姿
- 「劣っているわけでも、優れているわけでもない」という、静かな現実を、丁寧に見つめることが大切
アセラズ、クサラズ、アキラメズ。
華やかなニュースに、一喜一憂しすぎず、その裏にある、静かな現実を、丁寧に見つめていく。それは、子どもの教育を考える上でも、そして、私たち自身が、これからの時代を生きていく上でも、大切な姿勢なのだと思います。


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