結論から言います。以前、京都市の部活動廃止について、記事を書きました。それから間もなく、隣接する神戸市でも、部活動の地域移行が進んでいることを知りました。ただ、この2つの都市、進み方が、驚くほど違います。そして、もし大阪市が、同じ道を進むとしたら、他の都市にはない、独自の懸念も見えてきます。
京都市と神戸市、決定的な違い
京都市は、2028年8月末を一つの区切りとして、現在の中学1年生が3年生の夏に部活動を引退するまで、これまでの部活動を続けます。その後、2028年9月から、「京クラ」という地域クラブと、学校内で行う「放活」に、段階的に移行していく計画です。
一方、神戸市は、2026年8月末に、市内全中学校の部活動を、一律に終了させます。翌9月からは、「KOBE◆KATSU(コベカツ)」という、独自の地域クラブ活動に、平日・休日を含めて、全面的に移行します。これは、政令指定都市としては、全国で初めての、非常に踏み込んだ取り組みです。
つまり、京都市が「慎重・段階的」なアプローチを取っているのに対し、神戸市は「性急・全面的」な決断をしている、という、大きな違いがあります。
神戸市が、ここまで急進的な決断をした理由
神戸市教育委員会の担当者は、その理由を、率直にこう語っています。「少子化による生徒数の減少が、最も大きな理由です。現在、神戸市内の中学生は約3万3千人います。10年後の推計では、約1万人減ります」。そして、「生徒数によって学校に配置される教員数は決まっており、このまま生徒が減っていけば、部活動の顧問を担える教員がいなくなってしまいます」と、非常に切迫した危機感を語っています。
もう一つ、重要な背景があります。神戸市は、2016年から、既に10年近く、教員の働き方改革に、継続的に取り組んできました。全教員へのアンケートを実施し、「組織体制の強化」「業務負担の軽減」「現場の教員の意識改革」という3つの柱で、改革を進めてきた、その延長線上に、今回の「コベカツ」があります。つまり、この決断は、突然の思いつきではなく、長年の改革の”集大成”として、位置づけられているのです。
財政的な裏付けも、明確です。全国初の条例を制定し、10億円規模の基金を設置。1,000を超える、多様な活動団体が、既に登録を完了しています。
全国に広げる際の、4つの懸念点
神戸市の取り組みは、確かに、一つの先進的なモデルです。ただ、これを全国標準として広げていく場合、いくつかの構造的な懸念があります。
一つ目は、地域格差です。以前の記事でも触れましたが、地域で子供の文化活動を保障している国では、施設が人口百人単位で1つあるのに対し、日本の施設は約2600人に1つしかありません。神戸市のように、10億円規模の基金を投じられる大都市は対応できても、財政的に厳しい、地方の中小自治体では、同じ規模の投資は、現実的に困難です。
二つ目は、安全管理の責任の所在です。今まで、学校・教員という、明確な責任主体があったものが、地域団体という、多様で、時に不安定な運営主体に移ることで、何かあったときに、誰が責任を取るのかが、曖昧になりやすくなります。
三つ目は、経済格差です。「できるだけ多くの生徒が参加できる部活動」から、「費用が負担できる人だけが参加できるクラブ活動」へと、変わっていく懸念は、全国共通の課題です。
四つ目は、歴史的な教訓です。部活動研究の第一人者である神谷拓教授が指摘する通り、1970年代と90年代にも、同様の地域移行が試みられましたが、施設・予算不足で、いずれも失敗に終わっています。今回が、3度目の正直になるのか、それとも同じ轍を踏むのか、慎重に見ていく必要があります。
もし、大阪市が同じ道を進むとしたら
ここで、私が特に気になっているのが、大阪市の場合です。大阪市は、現時点では、モデル事業や有識者会議を通じた検討・実証段階にあり、京都市・神戸市のような、明確な廃止時期は打ち出していません。ただし、大阪府全体としては、既に「改革実行期間」を定め、休日の部活動は原則すべて地域で担うという方針が、決まっています。
もし大阪市が、神戸市のような地域移行を進めるとしたら、他の都市にはない、独自の懸念があると思っています。
一つは、小規模校の統廃合との、複合的なリスクです。以前の記事でも書いた通り、大阪市は、進学実績による予算配分、3年連続の定員割れでの自動廃校リスト入りという、極めて数値基準に基づいた、独自の統廃合路線を、既に進めています。学校自体が統廃合で減っていく中で、同時に部活動も地域に切り離されていけば、子どもたちの「居場所」が、二重の意味で、急速に失われていくリスクがあります。
もう一つは、財政的な体力への疑問です。神戸市は、10億円規模の基金という、明確な裏付けを示しました。大阪市が、同規模の投資をできるかどうかは、現時点では分かりません。財源の裏付けが弱いまま、地域移行だけが先行すれば、受け皿のない移行という、最悪のシナリオも考えられます。
そしてもう一つ、地域による、さらに大きな格差の懸念があります。神戸市の「1,000団体」という数字は、神戸市全体としての数字であり、各校区に、均等に分布しているとは限りません。人口密度が高く、地域団体の活力がある地域では機能しても、そうでない地域では、受け皿自体が、そもそも存在しない可能性があります。
本音は、どちらにあるのか
以前の記事でも触れましたが、大阪の教育行政には、「民間が担うとコスト削減とサービス向上が期待できる事業は、積極的に民間開放を推進する」という、一貫した方針があります。もし大阪市が地域移行を進めるとしたら、他の都市以上に、「教育的な意義」より、「コスト削減」という側面が、色濃く出る可能性があるのではないかと、感じています。
もちろん、これは、まだ起きていないことへの、一つの懸念にすぎません。ただ、京都市、神戸市という、2つの先行事例を見比べるだけでも、地域移行の進め方には、これほどの違いがあります。大阪市が、どちらの道を選ぶのか、そしてその選択の裏に、どんな本音があるのか。これからも、注意深く見ていきたいと思います。
まとめ
- 京都市は2028年からの段階的移行、神戸市は2026年からの全面移行と、進み方が大きく異なる
- 神戸市の急進的な決断の背景には、10年後に生徒数が1万人減るという、切迫した危機感がある
- 神戸市は、2016年からの、10年近い働き方改革の蓄積の上に、今回の決断がある
- 全国に広げる際の懸念として、地域格差、安全管理の責任、経済格差、過去の失敗の教訓がある
- 大阪市の場合、小規模校の統廃合と、部活動の地域移行という、2つの効率化が同時に進む、複合的なリスクがある
- 大阪の教育行政の一貫した方針を踏まえると、コスト削減という側面が、より強く出る可能性がある
アセラズ、クサラズ、アキラメズ。
制度は、それぞれの地域の事情によって、形を変えます。ただ、その変化の裏で、何が優先され、何が後回しにされているのか。これからも、目を凝らして見ていきたいと思います。

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